Interop 2013 ShowNet NOC 関谷 勇司

 はじめまして、Interop 2013 ShowNet NOC メンバーの関谷と申します。このたび、主に ShowNet で使われた技術を中心に、最新ネットワーク技術解説記事の連載を行うことになりました。執筆者は ShowNet NOCメンバーが中心となりますが、機会があれば、製品や技術を提供して下さったコントリビュータの方、共に働いてくれた STM (ShowNet Team Member) の方にも執筆してもらおうと思っています。よろしくお願い致します。

 初回となる今回は、ShowNet 2012 で行った会場内の無線運用に関して報告したいと思います。その前に、皆様 ShowNet というものが何なのかご存知でしょうか ? ご存知だからこそ、この記事を読みに訪れて下さっているのかもしれませんが、一応ご説明させて頂ければと思います。
ShowNet とは、Interop Tokyo の会場にて構築されている、会場内のネットワークのことです。しかし、ただ既存の製品や技術を用いて、当たり前に構築されたネットワークではありません。毎年毎年、その時の最新の製品や最新の技術を用いて、相互接続実験を行いながら構築されるネットワークです。ShowNet は、毎年その時節にあったテーマを決め、近未来 (およそ3年後くらい) に実現されるであろうネットワークを会場内に構築し、さらにそのネットワークを用いて会場の出展社の皆様や来場者の皆様に接続性を提供しています。つまり、近未来のネットワークを実現する実験と、実利用されるライブネットワークを構築するという2面性を持ったネットワークが ShowNet なのです。

 さて、本題の無線 LAN の構築と運用に話を戻したいと思います。Interop Tokyo 2012 において構築された ShowNet では、出展社や来場者の皆様に対して、無線環境を提供しました。実は、Interop 2012 以前においても来場者の皆様に無線 LAN を提供していたのですが、それは国際会議棟と呼ばれる、カンファレンスを行なっている一部の会場のみに限られていました。Interop 2012 では、展示会を行なっているホール全体に対して無線 LAN の提供を行いました。なぜ今まで行わなかったのか、と疑問に思うかもしれません。最近の主流である集中コントローラ方式を用いた無線 LAN システムを使えば、あのホール全体に無線 LAN 基地局を設置し、サービスを提供することはそれほど難しいことではありません。しかし、実際にサービスを行おうとすると、それがとても難しいことだと気づかされるんです。一言で言うと、


「会場内の電波が汚い」


これに尽きます。全然科学的な表現ではありませんし、技術的にも正しい用語ではありませんが、とにかくホール内の無線 LAN の電波が汚れまくっているんです。というのも、無線 LAN アクセスポイント、その値段も安くなり手頃に使えるようになりまして、出展社のみなさん自社のブースで無線 LAN を使うために、無線 LAN アクセスポイントを持ち込まれるんですね。また、3G WiFi ルータの普及も拍車をかけていまして、来場者の皆様も多くの 3G WiFI ルータを持ち込まれています。すると、会場内の至る所に無線 LAN アクセスポイントが乱立する、という状況が生まれます。
 図1は、会場内に設置されている無線 LAN 基地局の分布を図で示したものです。計測に利用した製品は、Cisco Systems 社の無線 LAN 監視システム WCS と位置情報サーバ MSE の組み合わせです。この図は実は Interop 2011 のものなのですが、密集して数多くの無線 LAN アクセスポイントが設置されているのがわかります。


blog1.png

図1 : Cisco CleanAir による無線 LAN アクセスポイント監視

 しかも無線 LAN 以外にも、様々な電波干渉を引き起こすデバイスが、幕張メッセの展示ホール内部では使われていることが観測されました。コードレス電話やワイヤレス監視カメラといったものです。特にコードレス電話はその電波強度が強く、無線 LAN のスループットを 100% 近く低下させることが観測されました。

 この電波状況の中でも出展社や来場者の皆様に、


最高の無線 LAN 環境を提供するんだ !!


という難題に ShowNet では挑んだわけです。結果は。。。


惨敗でした (TдT) orz


 ShowNet 無線を利用してデモをしようとした出展社の方から、デバイスが全然無線 LAN にアソシエーションできない、アソシエーションできても全く通信できない、等の苦情をたくさん頂いてしまいました。。。傾向としては、802.11b/g の 2.4GHz 帯電波を利用した無線 LAN は、ShowNet が提供するものに限らず、出展社や来場者の持ち込まれた無線LAN アクセスポイントを含め、ほぼ全滅の阿鼻叫喚な状況になっていたと思われます。一方で、802.11a の 5GHz 帯電波を利用した無線 LAN は、場所や時間帯によっては利用できる、というレベルにあったようです。 例えば 802.11b/g を搭載した Android 端末で電波を計測してみると、図2のような状況になります。さらに、もっと統計的にまとめてみると、図3になります。みなさん、1チャンネルと6チャンネルが好きなんですね。。。特に 1チャンネル、述べ 3日間で 760個以上の無線 LAN アクセスポイントが観測されたことになります。これは。。。。厳しいです。言い訳をするわけではありませんが、ここまでとは予想していませんでした。どんなに無線 LAN アクセスポイントの設置場所やその高さを調整したとしても、無力でした。。。


blog2.png

図2 : Android 端末による電波計測


blog3.png 

図3 : 各チャネル毎の 3日間のアクセスポイント数

 このように、Interop 2012 における ShowNet 無線 LAN 提供は決して成功とは言えない結果に終わりました。この反省を大いに生かし、Interop 2013 では、進化した ShowNet 無線 LAN 環境を皆様にご覧に入れたいと考えています !!! もちろん、会場内への無線 LAN アクセスポイントの持ち込みを禁止してしまう、というのも一案ですが、たとえ規則化したとしても持ち込まれる方はいるでしょうし、来場者の方が持ち込む 3G / LTE / WiMAX WiFI ルータを防ぐことは難しいと思われます。それでも、ShowNet はこの難題に


技術的な解決方法で


挑んでいきたいと思います。なぜならば、無線 LAN アクセスポイントが乱立するという状況は、少なからず現在の社会でも発生している状況だからです。駅構内や空港内、商業施設内といった公衆の場所においても、多くの無線 LAN アクセスポイントが見えるのが現状です。そして、それらの無線 LAN は、決して電波的に綺麗に管理されているとは言えません。各無線 LAN 事業者が、それぞれの視点に基づいて設置しているため、混在しているというのが現状です。


 つまり、近未来のネットワークにおいては、


無線 LAN をきちんと交通整理する


という技術が切望されると考えています。無線 LAN を使いたい場所ではちゃんと使える、つまり電波の指向性を制御するビームフォーミングといった技術や、電波遮断のための技術といったものが、近い将来必ず求められるはずと考えます。そこで、Interop 2013 の ShowNet では、幕張メッセ展示ホール内部の無線 LAN 交通整理に挑みます !!! それもルールで縛るのではなく、あくまでも技術的な手法による解決を試みます。

 皆様、是非 Interop 2013 に来場して、我々 ShowNet NOC チームが提供する無線 LAN 環境がどの程度使いものになるのか、またどのような技術を用いた創意工夫が行われているのか、ぜひチェックしてください !!!